
2030年までに、国民のお金の知識を世界一に。~フィンランドの挑戦~
フィンランド銀行はフィンランド司法省等と協力し、2021年2月、2030年までにフィンランドの国民の金融リテラシーを世界一にするための計画を発表しました。
金融リテラシーとは?
金融リテラシー、というとちょっと難しそうに聞こえますが、お金に関する知識や制度をしっかりと正しく理解し、どう行動するか、何を選択するかといったことを主体的に判断することができる力を指します。
具体的には、日々の生活である家計の管理や、計画を立てて貯蓄をきちんとすること、お金を借りる場合の注意点や、万が一の時のために保険をどうかけるか、といった、日常生活で当たり前の、けれどもとても大切なものです。
この計画の中で、「国民が一人一人の人生の中でのお金の大切さを理解し、エシカルな、持続可能な方法で、自分のお金と向き合い行動できるようになることが目的だ」と述べられています。その結果、「自分たち自身の生活を豊かにするだけでなく、国の経済全体の幸福につながる」とも書かれています。
フィンランドはもともと、世界の中でも金融リテラシーが高い国だと言われてきました。OECDやGFLCEの調査では、国民全体、または若者だけに絞った場合でも、金融リテラシーは常に上位に位置しています。
それでも、2030年に世界一を目指す、という計画を立てたのはなぜでしょうか。
お金の多寡だけではない豊かさ
私は、この発表を目にした時、数年前に訪ねたヘルシンキのデザイン博物館で見た、アルヴァ・アアルトの椅子を思い出しました。
フィンランドを代表する建築家、アルヴァ・アアルトが、戦時・戦後の国が貧しい中で椅子を作るにあたって、「辛い時だからこそ体に優しくて心地よい、一般の人でも手の届く値段で」ということと、「シンプルで量産もできて、多くの人が楽しめる」という思いで、椅子をデザインしたと説明がありました。
この説明を読み、彼の考える豊かさが、何と深くてあたたかいものなのだろうと思いました。その椅子を使うことで得られる1人ひとりの居心地の良さや満足感、また、その豊かさを多くの人と分け合おうという考えに、私は感銘を受けました。

豊かになるためのツールの一つとしての「お金」
この計画も、コロナ禍や気候変動、テクノロジーの発展など、変化の激しい社会の中で、国民1人ひとりが「豊かさ」を手に入れ、社会全体を豊かにするために欠かせない手段の一つだと考えたからではないかと思います。
コロナ禍においては、学校に登校できずオンライン授業が実施されても、家庭によっては学習環境が十分整わず十分勉強ができなかったり、デジタル化が進む社会において、人によってはその技術に適応できないケースなどもあります。
そのような困難に直面した場合でも、もし基本的なお金の知識を身につけておけば、リスクの高い行動は避けることができるでしょう。
今までに誰も経験したことのないほど大きな変化の中で、1人ひとりが改めて一生付き合っていくお金の理解をいっそう深め、行動できるようになることが、個人としての「豊かさ」、そして社会の「豊かさ」につながっていくのではないでしょうか。
「国民1人ひとりがお金の知識を身につける」という計画は、とても地道ではありますが、長い目で見てきっとプラスの効果を発揮するのではないかと思っています。
自分たちの暮らしを豊かなものにしていくために、目先のお金のことだけでなく、生活に根差した知識をしっかりと身につけて行動していくこと。自分の生活の中でも活かせるかもしれない、と思いながら、そんなフィンランドの挑戦を興味深く見守っています。

執筆者:みっちゃん
働く傍ら国際青年環境NGO、A SEED JAPAN に参画。高校や大学、一般市民向けに、金融の社会的意義と個人の資産形成などについて出前授業やセミナー等を担当。同団体理事。環境学修士。